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ビデオ音声録画

ビデオの音声録音は特に面白い仕事ではない。それに、ロケーションがとんでもない外れ
だったりする事がある。この間行ったのはバルト海沿いに近いシュウェリーンという町。
ここはメックレンブルグ・フォアポマン州の首都で、ドイツ統合前は東にあった町だ。そ
んな町に行ってもすることがないと思った。それに遠いい。フランクフルトからハンブル
グまで4時間、そこからさらに1時間以上かかる。12月中旬外の温度はマイナス5度ぐ
らいか、湖の表面は凍結している。石造りの駅は寒いとさらに冷たく見える。プラット
フォームに下りると、プロダクションの奥さんが向かえに来てくれていた。彼等は古い立
派な建物を借りていて、そこの地下にスタジオを持っていた。クラウスは社長で社員一人
で全てをこなす。僕は訳したテキストをもう一回読み録音の準備に入った。このビデオは
この州の宣伝ビデオだった。こういう録音は早く終了できる。仕事が終わるとクラウスは
本当は一緒に食事でもしたいんだが、テレビ局の為に火事の事件の編集を早々上げないと
いけないと言った。スタジオを出たのは2時頃だった。さてこれからまたフランクフルト
へ戻るか、それとも一日だけのんびりしようかと思った。東の町には一回ライプチッヒで
一泊しただけで、あまり知らない。イメージ的にどうも右翼というメディアの印象が強
い。スキンヘッドに囲まれても日本人だから昔の同盟国と言って逃げられないかもしれな
いが、そこで気に入られて飲み屋かなんかでおごられても困ってしまう。しかし、せっか
く来たのだから、せめて有名なシュウェリーンのお城でも見ようと僕は思った。これは実
はスタジオから歩いて5分の所にあった。湖の小島の上に立った美しい城であるフランス
の城を模型に19世紀前半に作られたらしい。同じ場所に前にも城が建っていたという。

この町は歩けば歩くほど気に入ってきた。道路は昔の石畳のまま。舗装されていなく、車
はその上をガタガタと音を立てて走る。戦時中に爆弾も投下されずに済んだという。間違
えて投下された数弾を除いて。人の流れもノンビリしている。メルセデス、ビーエムなど
もあまり走っていない。質素と言えば質素だが、どことなくお洒落な町である。市場に面
したカフェーなど、内装はどこの大都市においてもおかしくないデザインだ。飾りすぎ
ず、暗すぎず、ちょうどいい。僕はそこでポテトスープを飲む。ベーコンピースと茶色く
こがった玉ねぎが入っていて、体を温めてくれた。蔵パンにもベーコンの破片とナッツな
どが入っている。急にビールが飲みたくなったが、昼だったのでカフェオレにした。この
カフェオレであるが、気をつけないとどでかいスープ・ボールに入ってくる。半リッター
程入っていてガボガボになる事がある。ミュンヘンでこの間飲んだ時そうだった。貧乏性
で思わず出された物は全て平らげる癖があるからだ。

町のクリスマス市場を見に行った。小さな店が何件も出ていて、どことなく懐かしい雰囲
気をかもし出していた。この懐かしさはどこからくるのだろう。クリスマス市場というの
はブラブラと楽しめる所がいい。しかし一般的に人ごみの中に飲まれてしまう事が多い
い。フランクフルトから南に20キロの所に城を中心とした町がある。このドライアイヒ
という町のクリスマス・マーケットはこじんまりしていて、村の関係者等が店をだしてい
た、アット・ホームな祭りだった。しかし近代では殆どコマーシャライズされている。
シュエリーンの出店は全てそれを本業としている店ばかりだったが、それでも何故か、和
やかなムードが漂っていた。町の人のせいだろう。歩くテンポが穏やかだ。人の表情もの
んびりしている。この次期にフランクフルト等に出ると、顔色を変えてクリスマスプレゼ
ントの買出しの人で混雑している。クリスマスマーケットもまるで夜の渋谷だ。狭い処で
立食机を確保し小グループで暖かいワイン等を飲んでいる。しかしこの町では全てがス
ローモーションに掛かったようだ。いい絵を見つめているとその絵が動き出すことがあ
る。この町を見ていると、町の絵をみつめているようだ。そして少しづつ自然と動き出
す。そういう町だ。時計を見ると5時の最終電車まで後30分。この町に一泊することに
した。昨日電話を入れたホテルに歩いた。やや外れだが、駅から10分程度。ベルを鳴ら
すと出てきたのはおばあさん。一泊15ユーロの部屋に案内してくれた。15ユーロであ
る。2000円ぐらいか。しかも暖炉つきで、おばさんは火を灯してくれた。凍えた体が
少しづつ温まった。壁は木で覆ってあり、キッチンコーナーが付いていて、シャワーは共
同だがちゃんと設備されている。地下室ではあるが、空気がかび臭いわけでもなく、広々
としたいい部屋だった。(Ilse Hinneburg 値段はかなり上がっていると思いますが、まだ
貸しているようです)

そこで昼寝をしてから夕食をとりに出かけた。何を食べよう。シュウェリンの代表の料理
なんてあるのか。海は近いが、海まで30キロはある。魚料理を探すが、特に目ぼしい物
が見当たらない。すると、僕の好きなケバップ屋があった。それもちゃんと店の中に座れ
てノンビリいい感じの店だ。それに値段がいい。ユーロになるまではケバップといえばだ
いたい5マルクで食べられた。役2ユーロ50セントだ。しかし、ユーロ導入からはケ
バップの値段はだいたい3ユーロ50セントだ。なんと1ユーロも値上がりしたのだ。し
かし、この町の店ではたったの3ユーロだ。それも紅茶付きと書いてあるではないか。な
んたる良心的な店なんだろう。しかしこんな田舎町のケバップ。味はどうなんだろう。結
局注文したのはファラフェル。これはベジェタリアンである、何かの豆を元にした揚げ物
を野菜サンドイッチにつぶして入れる。見た目はケバップに似た物である。実はこれも僕
は好きである。ボストンとベルリンでは中近東出身の人が多いい地区に住んでいて、ア
パートから歩いてちょっとの角にファラフェル屋があったからだ。中々うまい。

店内は暖かいが、僕はかなりまた歩き回っていたので、体が冷え切っていた。中近東の店
長はロシア人となにやらロシア語で会話をしている。手がかじかんでいる。すると、店長
がスープをくれた。ここのファラフェル中々食べでがある。白いサラダソースがこぼれ
る。店長は紅茶を継いでくれた。中近東の音楽が店内に流れる。モシェの絵が飾られてい
る。美しいアラブ女性の絵が飾ってある。店内は小さいが、落ち着ける。店長にロシア語
を話すんですねと言うと、どうやら5ヶ国語はなせるらしい。ドイツ語、ロシア語、アラ
ブ語、英語とペルシャ語。この店長お喋りが好きらしい。お客さん、来る人、来る人と必
ず言葉を交わす。時間は8時。もう、人はあまりこない。クリスマスマーケットのせいか
もしれない。クリスマスマーケットのソーセージもかなりうまそうだったからだ。僕も実
はかなり迷ったのだが、屋台でソーセージをたべると、風防止の壁はあってもやはり外気
にさらされるのでこの店を選んだ。店長と何故か長話しをする事になった。湾岸戦争で兵
隊として参加した話、何故今はこのノンビリした町に住んでいるか、子供の教育を考える
とここが一番だという結論に到達したという事など。自分の子供達には大らかな、考えの
広い人間になってもらいたい、だから家はイスラム教だが、仏像や、十字架などもおい
て、その事をこども達に伝えたいなどと言っていた。イラク人は皆ヨーロッパに来るらし
い。イラン人は皆日本へ行くそうだ。何故だろう。聞きそびれてしまった。アメリカはあ
まり好きそうではなかったが(9・11の事件は批判していた)、僕が住んでいた事をは
なしていたら、興味深く聞いていた。気がついたら、彼の閉店時間までいた。夏にバーベ
キューでもする時には是非と誘われたが、実はここには一泊しかしないんだと話すと残念
そうだった。シュウェリンという町でイラク人と話しこむとは思ってもいなかった。イン
ターネットにこの町のレポートを書くというと写真までくれた。(Orientalischer
Imbiss) 

まだ9時だ。飲み屋を探しにでる。この飲み屋はどこの町にもある飲み屋で地元の酔っ払
いのおっさんにちょっと絡まれた。「いやー楽しんでるかねー。ひょー。ひょー。名前は
ヒョーエホンホワンか?」当人は中国語を真似ているつもりらしい。ほとんど東洋人のい
ない田舎町だから仕方がない。こういうオヤジ実はダルムシュタットなどにもいる。い
や、こういうタイプのおっさんは世界中にいる。飲んで酔っ払って、外人を見ると急に親
近感を感じよって来る、大変迷惑なオヤジ。まあ、親近感を持たれているといえばそうな
のかもしれないが、どうもこういうのは苦手である。しかし、何故オヤジ達に好まれるの
だ。帰り道にもっといかした飲み屋があったが、今日は4時半に起きたので帰宅すること
にした。

翌日はもう一回町を散歩した。なんとビジネススクールをこの町に発見。それも英語でビ
ジネススクールと書いてある。大学か、専門学校か、よくわからない。本当に経営を教え
ているのか?建物は昔の赤レンガ造りの学校かなんかで見かけは差ほど悪くはない
が。。。それから市場の前の喫茶店でコーヒーを飲む。昨日のブロンドの感じのいい店員が
注文を取った。この町ではブロンドでさえ感じがいいのだ。ヘンな町であると先入観をま
じえたどうでもいい発想が頭を過る。

11時にはシュウェリンを発った。たった二日間だったが、非常に気分転換が出来た。同
じドイツでもまったく違う世界、全く異なった時代に、異なった時間軸をたどる町だっ
た。宿のおばさんに鍵は部屋に置いて下さいと頼まれた。時々間違えて持ち帰ってしまう
人がいるらしい。彼女の言葉に従い、ドアの前の机の上に鍵を置いた。6時間後自宅に着
くと、なんとポケットに宿の鍵が入っているではないか。部屋を出る瞬間に再びポケット
の中に反射的に入れてしまったらしい。おばさんに電話をして鍵を封筒に入れて送り返し
た。2回も持ち帰らないで下さいと言われたのに。





湖沿いの観覧車



ケバップ屋のオヤジ



古い電気発電所。いまはシアター



フランスのお城を模型に19世紀に作られたと言う



石畳の道がいい