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侍映画撮影 



2004年1月 準備と格闘シーン練習

短髪でエネルギシュなコンピューター・ガラフィックスの学生は言った「大阪城デジタル・
モックアップで作成しよう。模型が完成してからスキャンすると2月中旬になってしま
う。それからだと撮影には間に合っても学科の課題として終了できないから。。。」と
ギョロ眼のラッセルは言った。侍映画ながらラッセル?そう、僕は念願の日本での映画撮
影を果たしたのではない。ここはイギリス、ボルンマウス、イギリスのドーバー海峡に面
したビーチ、自然、環境で知られている町だ。豪華なマンションが並び、近辺にはサッ
カーで有名なベッカムが住んでいるという。

ビデオテープに主役の侍の役を録画し、彼らに送ったのは11月だった。それから返事があ
り、今度は悪役のモテープを求められた。撮影は3月。しかし何故撮影2ヶ月も前に僕は
イギリスまで来たのか?この映画恋愛アクション映画で侍が戦うシーンがある。これのコ
レオグラフィーが難しい。そのため侍と浪人の役は少林寺拳法黒帯のマテウスから授業を
受ける事になった。マテウスは長身、長髪、色黒、頬骨が高いインディアンのような顔立
ちスペイン人。彼の父は米軍の対ゲリラ隊を訓練したと本人曰く。彼はブルース・リーも
ヌンチャクを習ったという先生から個人レッスンを受けたらしい。さて、そんな怖い人に
僕は刀の捌方を教わるのだ。プロデューサーのマーブと監督のピートは僕をマテウス先生
の家に送ってくれた。田舎の一軒家。広い庭には天井の高い24畳ぐらいの小屋が立って
いてその中が道場になっている。床は畳ではなく、コンクリート。その上にマットが敷か
れている。ヌンチャク、刀、中国の刀、棒、サンドバッグ、あらゆる道具が並んでいる。
マテウスは零下の環境で裸足だ。僕も裸足になった。冷たい。はく息が白い。コートはぬ
げない。空手着を持ってきていたが、そんな物に着替えたら間違いなく風邪を引いてしま
う。彼は木刀を渡してくれた。刀の基本的な振り方を教わる。構え方。その理由付け。重
心の移動。そして一時間目から既に映画で使うシーンをチェック。「時間が限られている
から、基礎からやってられないので。」と言いつつ、バランスの練習から入った。体は温
ままった。

刀を扱ったのは始めてだ。キックボクシング・クラブで何回か長い木の棒でトレーニングした
経験はあるが、それとこれとではかなり内容が異なる。だんだん体が温まる。「体の動き
が見えないから、コートは脱いでもらえるかな。」もう大丈夫だ。ダルマ状のダウンを脱
ぐ。監督のピートも参加している。監督は日本の格闘技に大変興味を持っている。ただし
格闘技オタクという訳ではない。大学入学直後日本の文化に日本庭園をカメラ・クラスを
取った時に魅かれたという。そういう環境で短編映画を撮影をしたいと想ったと言う。

一緒に訓練した後監督はオックスフォード大学に向かった。映画のサントラを担当する作曲家
との打ち合わせ。オックスフォード大学のオーケストラがサントラを録音する事になって
いる。サウンド・エンジニアには「リング・オブ・ザ・ロード」の音響の人が担当してく
れるという。向こうからインターネット経由で応募してきてただで参加しれくれるとい
う。ガッファー(照明)もプロが参加している。なんと凄い学生プロジェクトなのだ。

大学のコスチュム科で侍の装いの準備が進んでいる。やや丸めな胸元がギザギザ状に開いたT
シャツを着た金髪の女の子が、僕の丈を細部に取る。恥ずかしいような丈までガッチリ
と把握してゆく。鎧などもつくるという。女の子がズラーっと高い机に向かって立って型
を取っている。部屋の壁沿いには何十台もミシンが並んでいる。時々テレビなんかで衣装
デザイン科の風景を見た事があるが、ここまで揃うとなんか威圧感がある。イソイソと皆
片を取ったりミシンを扱っている。女性が仕切っている世界であった。やや恥ずかしい
が、写真を撮って現場を捉える。出来上がった鎧がこの作業場にならんだら凄いだろう。

実際の撮影にはクレーンも使用するという。日本庭園や近郊の森をチェック。地形には恵まれ
た地域だ。ケビン・コスナーのロビン・フッドやグラディエーターの一部が撮影された所
だ。そこで格闘シーンの撮影を予定していて、撮影許可も取ってあるとプロデューサーは
教えてくれた。普通短編映画だとその辺りは胡麻化してる学生プロダクションが多いい
が、色々と手が込んでいる。

ボルンマウスとはイギリスでは1、2位を争う映画科を持つ大学だ。しかし、それでもここま
で大規模なプロジェクトは初めてらしい。プロデューサーのマーブはオーガニゼーション
の才能を持っている。彼は20代後半までは自営業をしていて、それから大学に入学した
という年配組みだが、彼の人生経験がばっちりと生かされてるプロジェクトだ。彼はこの
町に自分で購入した地下のアパートに住み、それを自分で改造し、素晴らしい住居空間を
作っていた。

一方監督も凄い。イギリスで水泳のチャンピオンであった過去を持っている。今はニコチン、
カフェイン中毒の監督だが。。。そして若い。若い監督だがテキパキと仕事をこなしてい
る。まだ21歳で後4ヶ月で大学を卒業する。彼がCG グループとシーンの話し合いをし
ていた時に落書きをしてたが、その構成はしっかりしており、彼は完全にシーンの内用を
頭の中で把握していた。

大阪城の模型は高さ2メートル。美術部の学生が製作している。CG だけだとやはり質が充分で
ないという。暗く怪しく乱れる空模様。森の中に動く影。提灯の光と影。CGチームの4人
は監督と案を一つ一つ検討して行く。「わかった。出来る。来週までにはこのへんのバッ
ク・グラウンドは全部できるだろう。」とCG のリーダー・ラッセルは言った。

2004年3月いよいよ本番

「ダーリン、じゃあ今度はシャツを脱いで。」「スゥイティー。じゃあ今度はこれを着て。」
「ハニー、ここはちゃんと上げて。もうちょっとの我慢よ。」「ベービー。はい出来上が
り。」

コレは脚本ではない。イギリスのコスチュムの女の子が衣装を着せてくれている時に使った言
葉だ。思わずイギリスの女性に恋をしてしまいそうだ。しかし、イギリスの女性とドイツ
の女性はかなり違うなあ。きっと人間的にはそう変わらないのだろうけど、この最初の
合った時の感覚が相当違う。急にスィティーじゃあ今度は脚をあげてね、はかまを吐かせ
て上げるから、などと言われると思わず、犬のように尻尾を千切れんばかりにふって脚をあげ
嬉しそうに笑ってしまうのだ。そう前足を伸ばしてワンと吠えてしまうのだ。特にこ
ういう言葉に慣れていないと。。。

夜の撮影は寒い。着物に近い衣装で3月とは言えど、雪がちらついている。朝方3時になると
とにかく寒い。スタッフは頑張っている。女も男も。日本のホカロンを持ってきていてよ
かった。ヨーロッパにもあるのだが、何故か日本の物のように良くない。

このセットで働いている大学の女性は何故か皆魅力的だ。ドンドン仕事をこなしながらも、文
句一つ言わず、朝方まで働いている。さらに気がつく。役者が凍えているとお茶を持って
きてくれる。布団を肩に掛けてくれる。イギリスの女性ってこうなのかなあ。。。それと
もこの大学の女性がそうなのか。。。しかし、男の方もてきぱきと働く。この大学は映画
制作、コスチュム製作、ファションデザインとかなり実戦的で専門学校的な要素が強いた
め、変な理屈っぽい学生が男女両方に少ないような気がする。プロジェクトはこなすため
にある、という信念みたいな物を感じる。

助監督はエリザベス。第二助監督はハンナ。両方とも女性だ。雨が降る。テントの中はずぶ濡
れ。ハンナはモップでずうっとテント内を乾かしている。カンフーと忍びの術の名人マテ
ウスに僕は刀の扱いを習う。雨が上がると外にでる。マテウスのアシスタントのトニーと
ピーター。彼らは忍者の役をこなすアレックスも鍛えている。アレックスはもともとマテ
ウスの生徒。マテウスは後ケンジという良い人の役をしているイギリスで活動している役
者も訓練している。僕は悪者。浪人、髭を生やし、髪は長い。

「ハニー。あなたの出番よー。」と言われ思わずニコニコしながらセットへ向かう。悪者の役
だというのに。

格闘の練習

マテウスとその生徒トニーとピーターに刀の扱い方を教わる。なかなか難しい。コレオグラ
フィーに忠実に動こうと思うと、どうもぎこちなさがでて形になかなかならない。だから
簡単な基本運動から入った。一月に三日間トレーニングした。その後家で練習をしたのだ
が、適した棒がなくバットで練習をしたのがまずかった。バランス感覚が全く違い、変な
形に仕上がってしまった。撮影前にも八日間のトレーニングが行われ、なんとか変な形は
戻したものの、一回着いた癖は中々とれない。脚本では浪人対侍の対決が最後のシーンに
ある。短いシーンだが、そのためにかなりの時間が取られた。

主役のケンジと普段いつもセットでトレーニングを行う。セットにはいつもの親切なコスチュ
ムの女の子や助監督と第二助監督がいる。はて、途中で彼女の順序が代わった。ハンナが
助監督に繰り上げられ、エリザベスは第二助監督になっていた。でも別にエリザベスは機
嫌よく相変わらず仕事をしていて、雑用の紅茶等も運んできてくれている。二人共大学二
年生でイギリスでは3年で大学を卒業するので来年に卒業プロジェクトに係わる事にな
る。今年度は5分の映画を撮るらしい。ハンナは仕事はテキパキするが、良く喋る。撮影
はほとんど夜に行われる。彼女はレッド・ブルというカフェイン・ドリンクを4本も飲
み、ある一本にはカフェィン・タブレット・プロ・プラスを4個も入れて飲んでいた。カ
フェィン・ハイになっていてずうっと喋っている。。。

監督のピートとプロデューサーのマーティン通称マーブは3年生で、彼らの卒業プロジェクト
だ。森の中での撮影には大きな発電機を車で運んで撮影した。倉庫の撮影には幅13メー
トル、高さ5メートル程あるお城の壁と門を発砲シチロールで製作。プロのプロダクショ
ンと代わりのない出来栄えだ。どうやらこの映画大学はロンドン、パリの映画大学と肩を
並べるイギルスの名門らし。また彼らは模型で大阪城を作り、これをコンピューターにス
キャンインするという。衣装もコスチュム科の学生が製作、彼女達もずうっと撮影に付
きっ切りで衣装の着付けをしてくれた。彼女たちの卒業プロジェクトでもあった。

マーブはプロデューサーとしてどうやってお金を集めたのか僕は分からないが、かなりでき
る。大学から一部機材やフィルムは提供されるが、それ以外に彼らはロンドンの照明器具
の会社等からかなりの機材を借りている。僕は一週間ホテルに泊まっていたが、ケンジは
照明のマイクと一緒にアパートに住んでいた。この費用だって馬鹿にできない。この映画
には「ストラトスフィア・ガール」という映画で一緒に出演したリョウゾウさんとイギリ
スで有名な番組「バンザイ」の主役フジモト氏も出ていた。バンザイという番組はどうや
ら日本の過酷な番組、たとえばタケシ城、のパロディーらしい。リュゾウさんとフジモト
氏は戦うシーンがないので、二日だけ撮影に来てから帰った。

良く日本の役者を集めたものだと思った。彼らはイギリスのスポットライトという役者が登録
されているカタログやインターネットを利用したりしたという。しかし、倉庫を借りてそ
の中に巨大な城壁と門を作ってしまうのも凄い。僕は暇だったので天井にホースを引くの
を手伝った。「これ何のため?」「雨だよ。」「エッ?」

朝方5時。撮影は続く。刀に血が塗られる。アクションの言葉に続く雨。ずぶ濡れで寒い。も
う一回撮影だ。小鳥の鳴く声が聞こえる。カフェインの効果もあまりもうない。コスチュ
ムの女の子が乾かしてくれた衣装もまたすぐずぶ濡れになる。

そして浪人エンゲツサイは最後に切られる。僕はしかれた砂利に横たわり、さんさんと降る雨
を浴びる。「もう一回。よろしく。ところで大丈夫か。」「ノー・プロブレム」と答えな
がら「大丈夫じゃねえんだよ。」と一人つぶやくのであった。


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