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ケバップ

ケバップをご存知でしょうか。あのトルコのキオスクに似たガラス張りの店頭にぐるぐる縦に
回転しながら焼いている子豚一匹程の肉の固まりからデカイ包丁で薄切りの肉片を切り落
としてトルコの丸いパンに野菜にヨーグルト系の辛いソースを架けるトリルコ式ハンバー
ガー。

あれに初めてお目にかかったのはまだベルリンに壁があった頃。中学時代ラルフという友達が
親とベルリンに車で行くというので一緒に乗せていって貰った。初めての東ドイツ。道路
の質も悪いが、主に東ドイツ製の青い煙を吹きながら走るトラバントからなる東の自動車
群は結構故障などで両脇に止まっているのも少なくなかった。このトラバントを手に入れ
るのに10年以上待たなくてはいけなかったらしい。回りには何もないアウトバーン。
我々はバカな中学生だったから、東の車を見ては舌を出したりしていた。友達の親の車は
フォルクスワーゲンのステーションワゴン。東にしては高級車だ。トランクには東の親戚
のためのお土産が一杯積んである。このトランジット道路は機密警察が多いいのでも有名
だった。国外への脱走者を防ぐためだろうか、友人の親は東の人に悪いと思ったか、我々
の行動を阻止しようとした。しかし、このアウトバーンの回りには、逃亡者を恐れてか、
何もない。我々は親に気付かれないよう後部席から顔をあらゆる形に変形して東のアウト
バーンを息切れしながら走るトラバントを抜いて行った。もし東洋人に良くないイメージ
を持った東の人に合ったら、それは私のせいかもしれない。

ベルリンにはフランクフルトの補習校で知り合った総領事の息子達が住んでいた。元ヒムラー
か誰かの別荘で、庭でゴルフができそうな所である。昔から一緒にサッカーをしたり、馬
鹿をして遊んでいた。彼らはフランクフルトではインタナショナルスクールに通っていた
が、ベルリンでは米軍の学校に行っていた。冬に行って雪合戦をし、米軍の車に雪玉を投
げた。見事命中し、車は止まり、兵隊が下りてきて我々は逃げた。兄はハイスクールでク
ロカン長距離のキャプテン、弟は短距離の選手、で僕は長距離走をしてたので、深い雪の
中をもたつきながらも逃げる事ができた。夜は米軍基地のPXで映画を見た。日中は彼ら
のお母さんにブランデンブルグのゲートまで車で連れて行って貰った。弟のモトは何故か
中近東に入れ込んでいた。彼はトルコ人街のクロイツベルグが好きだった。壁に面した地
区で戦前は中心地だったが、当時は外人に占領された錆びれた町だった。そこの汚いケ
バップ屋で、周りはトルコ人に囲まれて、初めてケバップという食べ物に出会った。これ
がうまい。中学生の味覚だから、あてにはならないが。生の玉ねぎが薄切りになって入っ
ていて、軽い羊ヨーグルト系のネギ入りソースと真っ赤なチリソースが入る。これが軽く
て丸いトルコパンに白菜その他 野菜と肉と詰まっていて食べがいがあるのだ。以来どう
してもこのケバップと切って切れぬ関係にある。当時は3マルクした。その後もう一回彼
らを訪れたが、その時も欠かさずに食べに行った。

トルコ移民が発明したという。アメリカにも似た物はあったが、中近東のファラフェラサンド
イッチは第一肉が入っていなかった。以来かなりの年月がたちドイツに来たら嬉しい発見
をした。ベルリンのクロイツベルグに限られず、ドイツ中で食べられるようになってい
た。値段は倍弱。インフレとほぼ同額だ。ベルリンで学生生活を送った時にはまず真っ先
に寮の周りにあったケバップ屋を3件テストした。中に入れる野菜やソースが違ったり、
大きな丸パンの4分の1を使用したり、肉は牛や鳥だったりでかなりのバリエーションが
ある。決め手はパンとソースの調合にあるように思える。しかし、店主が違ってアルバイ
トだったりすると、もう中身の材料の比率が合わない。野菜が多かったり、ソースが少な
かったりする。結局どうでも良くなって、レポートと向い合ってもぐもぐ食べるのには近
場で済ます事になる。

ケバップを食べる理由には早い、安い、美味しいにもう一つの利点がある。バランスが取れて
いて、元気が出そうなのだ。体調がダウンな時は見る気もでないが、どこか、イスタン
ブールの濃いいオヤジ達と張り合える気がしてくるのだ。なめんなよ、俺もポパイのよう
に食べてるんだぜ、と言い張れる気がしてくる。また一人で食べやすい。レストランで
ボーッと一人で飯を食べたくない時には、これを買って町をブラブラして、気に入ったベ
ンチの上でサンドイッチブレークを取る。フランクフルトでの撮影前日、マイン川でケ
バップボートというのがあり、そこで買って日向ぼっこしながら食べた。問題は臭い。撮
影の当日には絶対に禁物。ケベップ特有の臭いはどこまでも飛んで行く。元気飯だから仕
方がないのかもしれない。

最近は外出してもどちらかというとファラフェルなど軽めな物を食べる。

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