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コメディー 2003年

ドイツとコメディー。さて思い浮かぶ作品はそうないと思われる。しかし、アメリカから多く
流入している作品の影響からか、ドイツでも多くのコメディーを製作している。サイン
フェルド等ニューヨーク独特のシリーズ等は深夜にしか放映されていなかったが、それで
も硬い支持者を持っている。軽いアングロサックソン系のユーモアに慣れたドイツ人。ま
た、今の10代20代は日本の漫画等も読んでいる。現代のドイツ人は多くの要素をどん
どん吸収している。となると、ドイツで製作されるコメディーもそれなりに幅を持ってく
る。持たないと聴衆も寄り付かない。毎日ジャガイモとソーセージというメニューでは食
欲を保てないように。イタリアン・パスタを食べたり、アメリカのステーキを食べたり、
多種多様に迫る必要がある。

今RTLで製作しているシリーズがそうである。RTLはTBSのドイツ版と言えよう。主人公はフレ
ンドリーでチビなシェフ。相棒がノッポな抜けたフランス人のコックさん。怖いブロンド
の女性店主に見習いのお兄さん。彼らがメインキャストだ。このキャストを見ても、キャ
ラクターに国際的な幅を持たせている。クロウド(全く関係ないが子供の頃クロードとい
うフランス人が間借りしていて食事になると背広を着て一緒に食卓についた)というフラ
ンス人コックを演じるのはユルグというドイツ人。しかし、フランス語もぺらぺらでフラ
ンス発音のドイツ語が板についている。顔や表情もフランス人そのものだ。さて、このシ
リーズの代3作に日本人が登場する。彼はシェフの元見習いで日本に帰国してからドイツ
料理で大成功を収めた若き成功者だ。しかし、彼はシェフの最悪なる見習いでもあった。
その彼がフグをご馳走してくれるという巻きである。かなりのドタバタ状況に発展し、生
と死の葛藤が繰り広げられる。ウリー・バウマンという監督の指示は的確で、鋭い。さら
に、役者達のシーンの解釈もそれぞれ面白い。監督は役者にかってに演じさせ、決断を下
して行く。又、自ら役を演じてみせる。僕が実際撮影に入る数日前に、衣装合わせでスタ
ジオに寄った際、監督の仕事振りを見た。このシリーズはまだ上映されていなく、シリー
ズのスタイル等も定まっていない。だから監督の指示も細かい。その状況を見て、僕は今
回はあまり一人で勝手に役を決めずにセットに向かう事にした。監督自身が演じたシーン
が面白く的確だった。台詞さえしっかりすればいいのだ。さすがに機械的に覚えようと
思ってもある程度シーンの流れを理解しないとかえって覚えにくい。実験的に出来るだけ
準備なし、真っ白の状態でセットに出向く事にした。こういうアプローチもたまにはい
い。

期待どうり、シーンに対しての支持は細部まで及んでいた。シーンの一箇所で僕は食卓で倒れ
る。このシーンで分厚い皿を頭で割ってしまった。何故か痛くはなかった。死ぬシーンに
は色々とある。この間ドイツのテレビでサムライ映画で死ぬシーン専門でやっている日本
の役者のレポートを見た。その役者はラスト・サムライにも出演しているという。そのレ
ポートで彼の死ぬシーンを幾つか見た。かなりスクリーンタイムが長い。15秒から20
秒かけて死ぬのである。気を失うシーンは普段短い。ふっと、倒れるのである。この
辺の違いが難しい。気を失うか、死ぬか。

セットではやたらと眠かった。ベットが悪くやや不眠症気味だ。実は今回宿泊した宿は今まで
の撮影経験から言って最低だった。だいたいいつも三つ星から五つ星ホテルに泊まれる
が、今回はいきなり星なしホテルだ。別に汚くはないが、どこか日本の安ビジネスホテル
の寂しさが漂った宿だ。部屋は広いが、テレビは白黒。そうだ、白黒のテレビなんて今時
あるのかという状況だ。リモコンはちゃんと付いていた。このテレビはカラーが壊れて白
黒に映っていたのではない。元大手電気メーカーの商品企画者として太鼓判を張ってもい
い、このホテルのオーナーがどこからか入手した超安物だ。このMMCスタジオが位置する
ケルン市の郊外にあるヒュルトという町は実は重工業地帯。工場が立ち並ぶ、70年代の
工業ロマンスを思い浮かばせる、空に黙々と煙突から立ち上る煙の中から朝日が差すよう
な所だ。部屋のベットは箪笥から開いて下ろす形式の物だ。ベットが入った箪笥が3個並
んでいて、内壁際の一つが下ろされていて、布団が掛かっていた。つまりこの宿は工業地
帯のビジネスホテルだ。気分的に部屋に入るとかなり落胆した。何故か、撮影というと良
いホテルに泊まって、早起きをして、散歩あるいはジョギングをしてから、ゆっくりと朝
食を取るというイメージがあるからだ。今までが運が良かったのか。初日長い道を車で
走ってきてゆっくりしようと思った所、エッという状況だった。やれやれ、役者とは日雇
い労働者なんだなという事が頭を過った。今日は食えたが、明日は不安。だんだん気分的
に沈んで行く。シャワーを浴びて少し気分を取り直して、テキストを復習した。早めに寝るが
ベッドが柔らかくて夜中に何回か目をさめてしまう。四泊はきつい。

朝食を食べていると長身で金髪ショートヘアの宿のお姉さんが部屋は朝食抜きで予約されてい
ると伝えてくれた。どうやら、朝食はスタジオで出るらしい。食べかけた朝食を見て彼女
は「今日のは計算に入れないから。」と言ってくれた。8時15分に向かえにベンツでマ
ルクスが来てくれた。「あまり良くないホテルだなあ。」と運転手のマルクスは言った。
実は二週間前にプロダクションに電話するまでは事務所は僕が外部から来るという事を認
識していなかったらしい。「あら、ホテルのコストを計算に入れてなかったわ。」という
怖い一人語を事務のおばさんが電話にこぼしたのを僕はちゃんと聞きとめていた。そうい
えばケルンでメッセが行われていたから市内にホテルがなくてという言い訳らしき返事も
あった。まあ、仕方がない。

スタジオのカフェテリアにはかなり朝食がビュフェ形式に用意されていた。スタッフ、役者が
皆ノンビリと朝食を食べていた。監督のウリーはややゴリラタイプのでかい男。声もでか
い。この監督は細かい。シリーズのパイロットで緊張しているらしい。視聴率が低いとエ
ピソードが打ち切りになりかねない。スタッフのアイディアもいい。カメラマンも良さそ
うで、皆の仕事振りを見ていて楽しい。自分のパートが終わってもいつも撮影を見物していた。

主役のコック・カッレさんの実名もカッレ、「7 Tage 7 Koepfe」というトークショーのレ
ギュラーだ。相手役のクロードはオペレッタ等にも出た事のある、歌って踊れる芸人だ。
この二人セットで冗談ばかりを放ちまくる困ったコンビだ。監督も一緒に笑っている。し
かし、撮影は厳しい。同じシーンを何十回もリハーサルし、その後撮影にもフィルムと時
間を惜しまない。まるで映画撮影の気迫でテレビシリーズを撮影している。もっともこの
プロダクションの人間は続くものと計算しているらしい。確かに、脚本も、キャラクター
も良く出来ているのだが。。。

脚本の最後が書き換えられた。カッレ、クロードと監督は新しいエンディングが気に入られな
いらしく、カフェテリアの昼食の間に論争が巻き起こった。皆で反対していたのだから論
争ではないか。脚本家が遊びに来た。30前半か、思ったより若い。何杯もエスプレッソ
を飲んでいる。皆は彼に新案を撤去するように薦めた。ナイスグレーのプロデューサーも
加わってなにやら事は収まった。結構皆冗談交じりで相手を攻めたり、引いたりして、な
かなかセンスのある討論が繰り広がった。

ここのプロデューサーはかなり権力があるに違いない。というのはカッレと他の番組の話等を
していたので、大幅に活動していると見える。しかし、客演できている僕にも声をかけて
くれて、大変感じがいい。他のテレビ局でも皆感じが良かったが、顔を出さないプロデュ
サーもシリーズだと時折いる。

非常に息の合ったチームで仕事がスムーズに進みすぎ、トラブルを表記できる事があまりな
い。事件といえば、学校のクラスがセットに遊びに来た。中学1年生ぐらいで、一番は
しゃいでうるさい時期の子供達だが、真剣にシーンのリハーサルに見入っていた。リハー
サルであまりに真剣に見入っていたので、実写している時にも継続して見て貰うことにし
た。子供達は大喜びだったという。

毎晩ヒュルテゥの安ホテルで過ごすと気が沈むので、見習い研修役のノッポな高校生とイタ飯
を食べに出た。また他の日にはケルン市内でちょっと古めの映画を上映している映画館
レックスでオスカー・ノミネートされたフィンランドの映画「エリング」を見た。



頭で割った皿



中学生のクラスが訪問。皆大人しく観察していた



日本語のホームページに出します、と言ったらポーズしてくれたメンバー。カッレ、監督のゴ
リラ・ウッリー・バウマン、一人置いてクロウド(実名ユルグ)助監督、スクリプト
チェック係り



工場が立ち並ぶ町。ヒュルトはあまり美しい町では
ない。この通りにホテルがありました