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フランクフルト・ヒップホップ2002年

フランクフルトは国際都市で人口の50%以上が外国人である(2018年のデータ。撮影当時
はまだ3割強だったと思う。)EUの人々、トルコ、セルビア、ロシアからの移民、米、
英、日と言った銀行マンから幅広く混在している。夏の都心を歩くと、よく南の国ので見
るように、ぼんやりとベンチに座って何か話しをノンビリしている光景も見える。国際都
市として、ドイツ国内でその地位を確立しようとしている。この町の弱点は文化面だろ
う。悪くはないが、ケルン、ベルリン、ミュンヘンと言った都市から比べると落ちる。そ
れはクラシックからポップ・アートまで全面的に言える事だ。

  マイン川沿いでお祭りを開催したり色々と町も努力をして町をアピールしている。そこで隣町
のオッフェンバッハ・芸術大学の映画専攻の学生ダニエルが考えたのが、フランクフルト
市のヒップホップ・シーンを紹介するというビデオクリップだ。フランクフルトのヒップ
ホップシーンはあまり知られていないのでそれを紹介しようというのだ。ドイツのヒップ
ホップにはエスニック系のグループが多いい。トルコ系、アフリカ系、中近東系、或いは
それら民族とのハーフなど。そこでこのヒップホップグループの出身地区を撮影しながら
フランクフルトの知られざる国際的一面を紹介しようというのである。金融、高層ビル、
スーツという姿とは異なった、移民の居住区域をピックアップ。街角で八百屋を運営して
いるトルコ人の店内で撮影したり、多国籍の青年達がプレーしているサッカー場を撮影し
たり、フランクフルトの普段見ない素顔が見えてくる物をつくりたいとダニエルは考えた。

これを彼は自分の卒業プロジェクトとして考案し、フランクフルト市のマルチカルチャーセン
ターに問い掛け、町のサポートを得た。ヒップホップの多くにはメッセージがあり、プロ
ジェクトに合ったフランクフルトで活動するヒップホップグループを5つ選び出し、一曲
を合同製作させた。それをリードし、ビデオクリップを製作したのがダニエルだ。



監督のダニエルはオッフェンバッハ大学で学ぶ前にロンドン大学にいた。なんとその頃のサッ
カーのチームメートがヒュー・グラント。当時ちょうど「Four Wedding and a
Funeral」が売れ出した頃らしい。

ところで僕はいったいこのプロジェクトとどういう係りがあるのだろう。僕が演じるキャラク
ターは日本からの芸術大学の学生で、ヘリコプターからクールなフランクフルト市内を
Digicam で撮影すると言う設定になっている。それでフランクフルト市内に分散している
それぞれのヒップホップグループを撮影する。しかし日本人は二人必要だ。できたら父親
役が欲しいと言われたが、そんな年配な人は知らない。困った。頭に浮かんだのが、ザー
ブリュッケンのオーケストラでテノールを勤める松井氏だ。なぬ、クラシックの音楽家を
ヒップホップのビデオに出させる?ちょっと戸惑ったが、キースジャレットだって、ヨー
ヨーマーだってクラシックからジャズまでこなしいているではないか。テノール歌手はオ
ペラ歌手。オペラ歌手は役者のようなものだ。ソニーの社長(元オペラ歌手)がソニーの
企画者とデザイナーを呼び集めて、ある企画デザインについて猛烈に批判をしていた事が
ある。その迫力、ただ者ではなかった。あの響いた低音、ジェスチャー、表情。「バカヤ
ロー。質問は所でありますか。」の言葉に手を上げる者はいなかった。一瞬あげようと
思ったが、退いた。本当は「失敗がなければ成功はありませんよね。」と言いたかったが
退いた。(大賀さんというより、本当は部署の人に後から余計な事言わなければよかった
のにと言われるのがいやだった。)テノールの松井氏、社長と同じ先生にベルリンで歌を
学んでいたという。期待できそうではないか。電話で直接話すのはちょっと気が引けるの
で、電子メイルを出す。返事がない。電話をするしかない。「いや、たった今断りのメイ
ル出したんですけど。」と言う返事があるが、その声には断定的な決心みたいな物がな
かった。チャンスと見た僕はある事ない事言って彼を誘った。すると、なんだ、彼はその
押しを待っていたように、面白そうですねから、じゃあ車で行きますという返事になっていた。

松井氏は体重110キロ、身長183cmとテノールらしい風貌をしていて、隣でビデオカメラ
を抱えてルンルンしている芸術大学の学生とは対照的なビジネスマンになりそうだ。ダニ
エルはちょっと若すぎるなあと合った当日にぼやいて、即急白髪スプレーを入手しようと
したが、何もなく、メリケン粉をメークのお姉さんが松井氏の頭にかけ出した。さすがの
松井氏もこれにはちょっとムッとしていた。持参のスーツに粉が掛かり、途中でこの計画
は断念された。

最初ダニエルから連絡があった時にヘリコプターに乗れるのかとわくわくしたが、間もなくブ
ルースクリーンという言葉がこぼれた。航空ミュゼアムでヘリコプターの後ろに青いスク
リーンを設置し、ヘリコプターは1cmも地上を離れない。実際のヘリコプター飛行(警察
がフライトを実行)にはカメラマンと助手しかのれず、監督のダニエルさえ地上で指をく
わえていたという話しだ。

トルガは我々日本人二人とイギリスカップルの観光客のパイロットという設定。トルガは自称
レゲーミュジシャンだがヒップホップもするといい、確かに歌はうまい。彼の撮影が最初
に始まった。照明担当者が彼と仲良くしていた。二人で仲良くラリパッパ状態だったかど
うかは知らないが、トルガは結構歌詞とか、動作のタイミングをかなり間違えたらしい。
松井氏と僕は午前中シュパイヤー市を見学し、中国料理店でゆっくり昼飯を食べていた。

この作品はフランクフルトの映画館で発表され、ジャーナリスト等もかなり来てくれた。満席
の大画面の前で好評を得た。7月後半からシングルも売り出され、何回か各テレビ局でも
放送され、MTVでも放送された。デジタル効果は最小限に抑えた、リアル感の強い作品と
してマルチカルチャルセンターは子供達の教育にも利用しようと考えている。他民族の共
存と国際交流という事であろうか。9月11日以後さらに問題視されているテーマだ。

ヒップホップミュジシャンでまともなメッセージを伝えているグループだけ呼んだだけあっ
て、結構話していて面白い人が集まった。それぞれ皆方針みたいな物を持っていた。トル
ガとはダニエルの車で行きも帰りも一緒だったので一番よく話したが、あいつは一番の変
わり者だった。ジャマイカにも数年住んでいた事があるらしい。

このプロジェクトで監督としてはだけでなく、プロデューサーとしても才覚を示したダニエ
ル。ロンドンで前にサイコロジーを専攻していたらしいが、途中で辞めてこの分野に入っ
たという経歴を持つ男。

Daniel Hartlaubの今

おや、このパイロット大丈夫か?


フランクフルトのヒップホップ ・シーンを案内するぜ、ちゃんと捕まっていてくれよ


歌を歌うパイロット。ヘリは町の上空飛を行く


我々の町


マルチカルチャーの中心


町を走る


撮影情景