>
Homepage


ショートフィルム・プロジェクト 2002年 

ショートフィルム・プロジェクトにはとんでもない物がある。撮影現場に付くと、「えっ?」と驚くような事がある。メイルでやり取りした後隣町のヘリコプターの飛行場に行くと、若い男の子が出てきた。高校を卒業したばかりかもしれない。彼が監督らしい。前に高校生の作品を見て驚かされた事があった。デジタルビデオで白黒撮影。無音。バスター・キートンとミステリーを合わせたような作品だった。本人によると撮影の歴史を初期から少しづつ近代に向けて自分の作品も進化させたいという。次作は白黒に音。オーソン・ウェルスの世界まではまだまだ掛かるそうだ。その高校生はフェスティバルで聴衆の賞を獲得。だから全く期待出来ない事はないのだが、どうも目前の青年を見ると不安になる。 

プロジェクトを紹介するウェブサイトはそこそこの出来だった。ヘリコプターに乗るシーンを撮影するというので参加する気になった僕だった。カメラマンは3台の8ミリカメラを駆使し、同時に3台で撮影した。カメラマンは30代で自称経験者だが、彼の撮影方法もかなり変わっている。どうやら監督とカメラの二人はビデオ、CDの販売関係で知り合ったらしい。カメラマンは実は普段はプロデューサーで自分の小さなプロダクションでCDを製作、購入、販売を行っていて、若い監督がそれを買い、インターネットなどを利用して、販売していたという。この監督は若いのにドイツではめったに見ないアメ車等に乗っている。安くはないはずだ。インターネットだとビジネス相手が10代の青年だという事がわからない。それをうまく利用して、ビジネスをしているようだ。台本は70年台のイタリアの安いホラー映画系だ。人が消え彼らを探しに出た探検隊が一人、一人森から消えて行くという話だ。8ミリで撮っているというのが興味深い。光の度合い等、まあ勉強にならないとも言えない。安いホラーはほとんどデジタルなので8ミリにしたと彼等は言う。販売作戦らしい。このショートフィルム、かなり内容的に無理がある。撮影現場がアメリカという事になっていて、撮影中に使用する車のナンバープレートを全てアメリカの物に代えている。しかし、キャラクターはドイツ語で会話をするというちょっと変わった作品。監督はロケーションをアメリカにしたほうが売れる可能性が高いという。初作品なのに売ることを考えているのが大胆だ。監督の行動を見ていると初作品に違いないと思ったが、どうやら前に2作程撮っているらしい。音声の問題もある。ディジタルVTRでも同時に撮影しているので音は拾っているが、経験から言って、あのマイクの設定では音がまともに拾えているとは思えない。後からボイス・オーバーするつもりなのか。ヘッドホン等は誰も使用していない。こういう状況に置かれた僕はやたらと寂しい気分になった。絶望的である。

2回目の撮影では夜中監督の車でカメラマンの住む東ドイツの村へ移動。そこで雑魚寝し、カメラマンが見つけたロケーションへ移動。森の中で捜索しているシーンを撮り終わると、かなりみすぼらしいアパートに行く。そこは立て壊しが決まっていて、撮影現場には最適だ。まだ新居が決まっていない住人もいて、そこのニコニコしたトルコ系のお兄ちゃんとドイツ人の太った男の子が見物に来た。彼のお母さんに頼んで、10ユーロで電気を借りる事にした。これで照明の電源を確保できた。我々はあるアフリカ系のガンディーラーが客をぶっ飛ばすシーンをそこで撮影した。この時に使用したギブスで作成された頭はかなりよく出来ていた。その中に仕掛けられた爆発物は血飛沫と共に薄汚れたアパートの壁に散らばった。編集次第でかなりいいシーンになりそうだ。インパクトのあるシーンだ。しかし、ストーリーの他のシーンは見ていない。いったいどのように編集するのか非常に不安である。ドイツでは公共の場を利用する時は撮影許可を取らなくてはいけない。監督はドラム缶に火を炊いたりしていると、庭などから首を出している人を見かける。かなり遠くても、カメラマンはソソクサと走っていって、映画を撮影しているのでと一言掛けに言った。間違って警察でも呼ばれたら大変だからだ。  

このプロジェクト以来、少し選び方に慎重になった。映画という物にただ興味を持っていて、何も知識がないのに撮れると思っている人が多すぎるのに最近気づいてきた。それは一部大学でメディア、映画を専攻している人にも当てはまる。映画には、それがどんなショート映画であろうと、しっかりしたプランニングとマネジメントが必要だ。熱と思い入れだけで進むプロジェクトもあってもいいと考えたいが。その点大学の卒業プロジェトは比較的安全だ。教授は付いているし、監督本人も自分の首が掛かっている。それ以外のプロジェクトはしっかりした指針がない限りこれからはパスしようと思っている。もっとも撮影レポートを書いている身としては、失敗プロジェクトの方が返って面白いとも言える。実はそれが理由でこの間、ベルリンの映画撮影グループとコンタクトを取った。与えられたのは映画の話の流れに時々現れるベルリンで迷子になる東洋人の役で、特に演劇の器量が問われる役ではなかったが、どうも中心となるスタッフが脚本の雰囲気からして東ベルリンの人間に思えた。住所からして東だ。ドイツ統合前からずうっと東側に住んでいる若い監督の考え方、生活に触れてみたかった。ただ、メイルのやり取りからかなり頼りない雰囲気が伝わってきていた。結局プロジェクトはぽしゃってしまった。結果としては、彼らの脚本と作品に興味があるというより、彼ら自身の生活に興味があったという僕の興味の置き方がいけなかったとも言えるが、この二つの事件以来、プロジェクトを探す際かなり慎重になってきたのは確かだ。 

文句が多いいが、若い監督は監督としての知識は備えていなかったが、ロケーション選びと小道具には結構こっていた。いったいどんな作品になるのだろう。8ミリだから手でカットするのだろう。時間と根気が必要な作業で、問題なのは、ディジタルのようにすぐに確認できない。それでもまともにカットできるのか。 

僕の役はジャックという男で、森で消えた人々を捜索しにヘリポートから現場に発つ。着陸し、森をさ迷い、何時しなく消えるという役。どうという役ではない。問題は他の役者にもある。半分以上が監督の友達。全く経験がない。興味さえない人もいる。これは問題だ。せめて興味でもあれば何とかなるが、おまけで突っ立っているのだ。やれやれ。カメラマンは彼等を出来るだけシーンから外していたが、それで済むとは思えない。うーん。どうなるのだろう。

結果的にはこれは映画にならなった。監督はその後あったら葬儀屋さんになっていた。結構儲かるらしい。


拳銃の密売人。


救助隊のリーダー兼主役。でも映画間違えてないか?これから晩飯前に7、8人消してくるさという役のほうが似合いそう。。。


現場選びは悪くない。


完全取り壊し寸前のアパート。


窓ガラスはどこへ消えた?


撮影現場。手前の男の子が我々の電源を提供援助してくれた。


ヘリコプター飛行と言えども、150メートル飛んだ先でまた着陸。