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ビール

僕は最初ドイツに住んでいた頃は特にビールを飲まなかった。バイクに乗っていて、郊外に住んでいたためか、パーティーに行っても殆ど飲まなかった。飲まなければ、ビールの味も分からない。しかし、これが日本の大学に入った途端に事態は急変した。僕はたちまちドイツ人と呼ばれ、コンパでやたらとビールを薦められた。ドイツ人飲めの号令が掛かり、まあ、仕方なく飲んだ。しかし、ここで気づいたのは結構飲めるという事だった。ただ、ビールの味には特に引かれはしなかった。

東京で入社して新入社員同士の飲み比べがあった。ここでビールをビンから一揆し、スピードで勝った。二位と三位の者はトイレに駆け込んでいた。多分泡が胃袋を限界まで膨張させたのだろう。これはまあいただけない飲み方である。ビールの味を知ったのは東京でサラリーマン生活をしてからである。帰宅電車内の猛暑をくぐりねけ、同期などと繰り出して飲みに行く。喉越しを通過するあの泡の感覚、もうたまらない。はてな、さっき味を知ったなどと書いたが、ビールの楽しみ方を知ったと言ったほうが正確なのかもしれない。いや、それも大げさか。ビールが初めてコーラよりうまいと思った。これもちと味気がないなあ。まあ、いずれにせよビール万歳の日本の夏を知った。会社の外人社員ともよくビアガーデンに繰り出した。しかし、なんですかねその後、ある夏小学時代の友人とミュンヘンのビアガーデンに行った時に何故か初めて味に目覚めたような気がする。ドイツでは摘み等食べずビールばかりを飲む者が多いい。そのように我々3人はミュンヘン郊外のビアガーデンに行った。清清しい風が吹くそのビアガーデンは公園のどこまでも続く巨大ガーデンだった。そしてリッタージョッキ {Masskrug}で乾杯をした。泡の唇に触れる感覚、ビールが口の中で踊る感触、広がる味、全てが新しい体験だった。こう朗らかな感じに包まれるのである。そこに夏風が遠くに流れる川の方から吹いてくる。日本の暑さと汗を吹っ飛ばせ、極冷ビールをカッと飲んでさっぱり、よしもう一杯で今度はストレスを流そうという世界ではないのだ。ただ座って、ビールだけを飲み、昔話に勤しむのだった。ビールのジョッキは重い。ガラスでできているが空でも重い。そのどっしりとした重さがビール一口一口飲む毎にその行為のありがたさを意識に染み付かせた。皆、既に二杯目に取り掛かっていた。どうも日本で飲みなれていた僕はどうも炭火の上で焼いているフォレレ、鱒に気を取られ始めた。芯のビール家にお叱りを頂きそうだが、仕方がないのだ。野良猫になった気分で急にぼくはソワソワしだした。ビールにししゃもの世界ではないが、それに近いドイツ版である。「どうしたんだユウキ。」ステファンは聞いた。彼らに鱒の話をすると「いや、それはいいアイディアだ。」とうなずいたのでそそくさと僕は立ち上がり、でかいのを2匹買ってきて3人で分けた。ビールと地元料理。ドイツビールとソーセージというのがお決まりのパターンかもしれないが、魚もおいしかった。とにかく。

高校時代には彼らがビールばかり飲み摘みを食べないのに閉口した僕だった。だいたい飲み会かパーティーに行っても義理でビールを注文していたが、一本飲み干す事はまれだった。友人は何気なく3本ぐらいは平気で飲んでいた。顔色も変えず。が、そのビアガーデンでアレッ俺にもこういう飲み方ができるんだと思った。ビールだけに集中する。本当においしいビールだったら確かに出来るのだ。我々は3杯目を注文した。サマータイムで日が暮れるのが遅い。いつまでも飲めるという錯覚に落ちる。結局3杯目は3人で2杯を分ける事にした。体のでかいドイツ人にもビールの翌日という物が存在するのだ。かれらのアパートにたどり付いた頃にはふらふらだった。皆両手に二個づつビールのリッタージョッキを抱えていた。これは僕が、高校時代に思い残す事があると言ったからだ。「あの頃さあ、肝試しに皆一回ぐらい盗みをしただろ、でも俺さあ、町で唯一の東洋人の高校生だったから、目だってできなかったんだよ。」と言った。するとそれなら、中半端な事をしてはいけないと、3人で6個のジョッキを持ち出した。全く役に立たない代物だ。未だに部屋にゴロゴロしている。ジュースを飲むにはでかすぎるし、誰が一リッターも飲むんだという事になるし、中で洗濯するには小さすぎるし、とにかく使えない。

このビール問題は喉が渇く。日本のビールはお手洗いに行くだけで済むが、ここのビールはやけに喉が乾く。夜中に何回か起きてはサイダー水を飲んだ。

そしてその後僕はボストンに移った。そこの会社の社員は皆ビール好きだった。何も知らない僕がバドワイザーなんぞを注文すると、ちっちっち、と指を振って、これにしなきゃあ駄目だよ、と分けのわからないビールを薦めてくれた。なんとビールが茶色く濁っている。うへ。こんな物飲めるか、アメリカ人め、マクドナルドの食いすぎじゃねえのかよお、と思いつつも僕は仕方なくこの長髪なエンジニアの兄ちゃんの言う事を聞いた。が、まてよ考えてみればバドこそアメリカ標準の味だ。ひょっとしたらマイクの薦めるビールはうまいのではないかと思う。一口飲む。ギネス程ではないが、どこかヨーロッパの味が漂っている。味のあるビールである。癖はあるが、悪くはない。大きく分類すると、これをエールと言うらしい。でもドイツのクリアなビールとはまたかなり違う。うーむ。

このエール本当に好きになるまではかなりの時間がたった。一年ぐらいか。その内週末の金曜日にこのエールとハイペニアとか言うチーズの入った唐辛子フライと注文するのが癖になった。すると疲れが取れ、これから週末に突入するぞという元気が出てきた。このエールとは何故かビールのくせをして、喉をこうざらざらとつたって行く。まるで喉に合図をしているように。そして舌にジワッとした、やや下品ではあるが力強い印象を残していく。もしバドワイザーが軽いアメフトかなんかの応援ブラスバンドだどしたらエールはブルーズにより近いビールだ。ドイツのビールはクラシックと言えるかもしれない。なんと言ってもドイツのビールは500年以上も前に成立したドイツビール法に従わなくてはいけない。Nach deutschem Bierreinheitsgesetzと必ず記されている。品質には厳しいお国柄なのである。

このエール,時と共にその味わいが深くなる。ハーバードブルーワリーという大学前に地ビールの飲み屋がある。元は経営工学の卒業生3人が作ったビール屋だ。出来たての地ビールを楽しめる仕組みになっていて、学生から社会人で満杯だ。ここはどちらかと言えば会社の同僚よりも演劇の仲間と良く行った。ケンブリッジの中心にあるから大変便利だった。

そしてアメリカを離れた。ビン入りのエール「サムアダムス」が簡単に手に入らないドイツ。が、別に気にもならなかった。ドイツのビールはうまいからどうでもよかった。ベルリンからロンドンへ引っ越した。そして初日にドイツの学友とイギリスのパブに入った。なんと人々はエールらしき濁ったビールを飲んでいるではないか。アメリカから一年たっている。時間を置くとやはり懐かしい。バーのお兄さんに聞くと確かにエールという答えが返ってきた。一瞬微笑が口元からこぼれた。ククク。これは直ぐに一杯頼もうと久しぶりに高鳴る自分のハートとポンドを右手に握り締め僕はカウンターへむかった。One Ale please。反感を買ってはいけないと、できるだけイギリスっぽい発音でせまった。どれ?どうやら、やたらと種類が多いらしい。やや黒っぽいのを頼む。うーん。期待の味とかなり違う。かなりの絶望感が走る。一瞬の期待が泡となって消えた。うーん。見かけも名前も同じだが、味が違う。どうもかなり癖がある。なんだろう。確かに時代を感じるビールだが、ドイツのビールはバッハやモーツァルトを思い浮かばせる透明感に対して、どうもシェークスピアが地元のパブに漬かって飲んだくれているような感じがするビールだった。なんだろう。

経営工学の学友とは三日に一度は軽く一杯飲みに行った。地元のカルチャーを知るためだ。授業にもインタナショナルマネジメントという授業があるように。そこで飲んだのが物凄かった。酸っぱいのである。クリスティアンも顔をしかめた。バーのお姉さんにこのビールの味は?と聞くと、酸っぱいわよとあっさり答えた。そうか、腐っていたわけではないのだ。まるで酢をそのままビール樽に注いだような味だ。イギリス人のフライドポテトに酢をかける感覚が漂う味だった。いや、実は僕も決してフライドポテトと酢のコンビネーションは嫌いではないが、どうもビールとなると。しかし、まだまだイギリス最高のエールの旅をあきらめた訳ではない。旅は始まったばかりだった。その時まで僕はビールという物に執着心を感じた事はなかった。それは今まではその場その場に好きなビールがあったからかもしれない。ないとなると話は変わる。とにかく探さなくてはいけない。注文をしても、色とあわ立ちが気に入っても、口の中に流れて要約理解できるそれまでの緊張感がいいのだ。はっ。またも騙された。期待はずれだ。と思っている内に確かに舌も地元ビールに少しづつ慣れていった。

国際マネジメントクラスでは経営コンサルタントビデオらしき物を撮らされた。この機材の管理をしている男が小柄なフレンドリーな人だった。もともと撮影が好きな僕はこのオヤジと話をしている内にビールの話になった。僕はイギリスでは自分のビールをまだ見つけていないという話をしたら、このブライアンというオヤジはニコニコしながらリストを作ってくれた。 Waggledance, Newcastle Brown Ale, Hopgoplin, Black Sheep, Old with Ale, Dirty Dicks Ale, Ram Rod Smooth, Killkenny, Irishstell, Menphis, Cider Bewlike と彼は僕のダイアリーに書き込んでくれた。しかし、僕はビール巡りにイギリスに来たのではない。勉強をしにきたのである。ブライアンはインターネットでサイトまで調べだした。僕もそこまで暇ではない。ここでビールを学費で頼んで今度飲みましょうと言い残してその場を去り、授業へと向かった。ちょっと待った。上の名前をもう一回良く見てもらいたい。Waggledance とは尻振りビールではないか? そして Dirty Dicks Ale これは汚い何のエールという事になる。それともイギリス英語だとdick の意味はちがったかなあ。しかし、この Ram Rod Smooth も大変な名前である。つまり突き刺さすスムーズな竿という意味有りげな名前が付いている。イギリス人のブラックユーモアに違いない。しかし誰が飲むんだこんな物?

ここまで読むと僕は単なるのんべいにしか見えないが、とても恥ずかしくて酒飲みとは言えない。飲むのは週に2、3回それもグラスに2杯か3杯である。それも部屋にゴロゴロしているジョッキで飲んでいる訳ではない。ただ飲むんだったらおいしいほうがいい、という単純なる希望は捨てたくない。

さてこの間日本から演劇のグループが家に訪れた。日大芸術学部出身者二人、早稲田二人に後は忘れたが、私は珍しく風でダウンしていた。彼らの最後の晩にわが村の飲み屋に繰り出し、ワイツエンビールを飲む事にした。このビールは濁ったビールだが、イギリスの物に比べて癖がなく飲みやすい。これを飲みながら。。。

ワイツェンビールとはいったいどんなビールなのであろう。ワイツェンビールはドイツでよく飲むピルスよりアルコール度が低い。普通のビールは大麦から作るが、このワイツェンは小麦が混ざっている。混合比は66%小麦に33%大麦と言ったような物が主流だが、50%の物も少なくない。ベアリーナーワイセと呼ばれるベルリンで飲まれる物は33%小麦を使用する。これはワルトマイスターシロップと言う森の味シロップという緑色のシロップか、レッドカレントのシロップと混ぜて飲むことが多いい。

フランクフルト地方で飲むワイツェンは一般的な背の高い、500mlグラスで飲む。シェイプとしては中細りで口が大きく、底が比較的小さい形をしている。ビンからこのワイツェンを注ぐ時には一般的にグラスをビンに逆さまに乗せ、その後それをビンごとひっくり返す事が多いい。するとちょうどいい具合に泡と液体がグラスに注がれるのである。

この辺りで良く見かけるのがあとへーフェワイツェン。これはイースト菌をビンに残したワイツェンで曇った、こくのあるビールだ。その他にクリスタルワイツェン等がポピュラーだ。バイアルン州ではこれにレモンを入れて飲んだりするらしい。これはテカテ等のメキシコビール等の影響か伝統的な飲みかたなのかはちょっとわからない。

それほどみないのが次のワイツェンビールだ。ワイツェンボック。これはダブルのアルコール度を持ったワイツェン。僕は飲まない。ビールを飲める量が減るからだ。その他にドゥンケルワイツェン。これはお目かかる事が多いい。僕は好きなビールだ。味わい深く、黒パンにハムを乗せて一緒に食べると結構幸せな気分になれる。ドイツには黒パンにラード、つまり豚の脂肪を塗って塩をかけて食べる。ラードにベーコンの欠片みたいな物が入っている物があり、これ自体特にうまくはないが、黒パンとワイツェンビールの味を引き立ててくれて、時々森を抜けたチャリで15分ぐらいのビアガーデンで楽しむ事がある。隣の家の早期退職したマンフレッドに出会う事がある。

ワイツェンビールのグラスの独特な形のせいか、これを収集するのを趣味にしている者も少なくない。

続く。

とりあえずビールの調査をしてから。。。次回はドイツのピルスなどについて。。。


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